その冬、僕は眠り続けるのに苦労した。
部屋の密閉度が低いためにあらゆる場所に隙間が存在し、全ての隙間から寒気が入り込んでくるのだ。その全方向性空冷機構の制御方法は不明。全ての気孔から過去の映像を脳内へ直接的にリフレインする幽霊が入り込んで来てくるかのようで落ち着かない。幽霊はエッシャー蜥蜴のように浮かび上がったり沈み混んだりしながら、僕の睡眠覚醒シーケンスに忍び込んでくるのだ。断続的な眠りの、とあるピークで、結局僕はそのシーケンスを断念する決心をした。
どこからか手に入れた寝台からもそもそと起き上がりながら暗視モードで空間を走査する。見つかった断片、『クローム襲撃』。80年代の古臭い内向的な現代性をパッケージした計算機の思考形態のサンプルだ。
そろそろ文体のトレースを中断しよう。『クローム襲撃』を読み直しながら、過去の僕が何を考えたか、何が好きだったか、どのように考えようと考えたか。全てはその文書を読み直すことで浮かび上がってくる。それは文章の形態を取った過去の自分の雌型である。
結局のところ、それが僕の「ホログラム薔薇のかけら(Flagments of a Hologram Rose)」だったのだ。
ここに来て、僕の80年代はようやく決着したのである。
file closed.
|