やぁ。ようこそ。まぁゆっくり座って。ウォッカでもどうかね。ミズグチ?ふふふ、誰のことかな?あの哀れな小羊は今頃地獄の業火でこんがりバーベキュー?いやいや、アレは肉付きがよくないからな、焼いても美味しくはなかろう。まぁ座って。あわてても何も事態は変わりはせぬ。
ああ、ちょっと失礼。ああ、私だ。うむ。何も問題はなかろう。ただし油断はするなよ、どんな相手にも万全の対策であたれ。常に連絡を怠るなよ。
ふむ、あいつも儂の目が届いてないと思って無駄なことをやっているようだな。所詮逃げれはせぬし、何も起こせないさ。今さらな。
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僕はヒライワ。いまはしがないウェブ・デザイナー。
ぴーりぴりりりぴーりーぴららーぴらーぴらーぴぴー!
SHARP社の621S型PHSが無機質なメロディを奏でて、プレイし始めたばかりのビデオ・ゲームの中断を即す。僕はコントローラーを置くと、液晶画面でミズグチの名前を確認してからフリップを開いた。スピーカーの向こうから、やけにうわずったヤツの声がとびこんでくる。
オレだ…よ!…ザザッ…このまま…ザザッ……キタの………ホテル……監禁されっ…ザッ…ガガガガ!!!
ノイズに遮られてよく聞き取れないながらも、なにか“よくないこと”がミズグチの身におきていることだけは確かだ。僕はなんとか状況を理解しようと必死で呼びかけたが、それきり、スピーカーからは何もきこえてこなかった。
おちつけ、まずなにをすべきか…?
僕は愛用のバッグにノート端末とPHS、そしてフリスク1ダースを押しこむと、鮮やかなイエローのジャケットを身にまとって、部屋を飛び出した。
まずは、ゲーセン、そしてカレー屋だ!足跡をみつけろ!!
何かに急き立てられるように、僕は走りはじめた。
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どれ、あいつが絶大な信頼をよせているというヒライワとやらの実力、とくと拝見といこうではないか。どうかね、君も一緒に?なに、酒はまだまだあるさ。フフフ、楽しかろう?夜はまだまだこれからなのだからな。